【映画レビュー】アーミー・オブ・ザ・デッド
所感
ザック・スナイダー監督による、2004年公開『ドーン・オブ・ザ・デッド』以来17年ぶりのゾンビ映画。
現実離れしたヴィジュアルを作り上げることで有名な同監督だけに、ゾンビに支配され荒廃したラスベガスは流石の一言。
それなのにストーリーはゾンビものとして王道というか、革新的ななにかはあまり見受けられなかったように思う。
とあることで街にゾンビが溢れかえる
↓
目的があってゾンビのいる場所に潜入する
↓
何人も死ぬ
↓
脱出できたように見えて……
というのはゾンビ映画としては超王道だ。
「アルファ」と呼ばれる普通のゾンビとは違うスーパーゾンビみたいなのが出てくる程度で、本作も大まかな流れはほとんど王道だ。
序盤の流れはとても良かったのに、後半にかけてゾンビの王道に沿って話が進んでいくので「あぁ…まぁ、そうなるよね……」となるのが少し残念だった。
ただ、「傭兵が街に眠る莫大な金を奪いに行くも、街中にゾンビが蔓延っていて一筋縄ではいかない」という、クライムアクション的視点で観ると「敵がゾンビ」ということでひねられていて面白く感じた。
個人的にザック・スナイダーが監督・脚本を手掛ける作品はシリアスな雰囲気の中に突拍子もないギャグが潜んでいるというか、シリアスだからこそ突っ込まざるをえない要素があるのが特徴だと思っていて、過去作の『300 〈スリーハンドレッド〉』や『エンジェル ウォーズ』は観ていて「いやいやいや……(笑)」となるシーンがそれなりにあり、本作も似たようなシーンがたまに挟まれていると感じた。
噛まれたら終わりだというのにゾンビ相手にタイマンステゴロとかどんなヤンキー映画だよっていう。雰囲気はシリアスなシーンなのにギャグっぽくて自分は笑ってしまった。
主役のデイヴ・バウティスタは、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のドラックス役でヒットした元プロレスラーで、体格を活かしたアクションシーンを求められることが多く、本作も元傭兵のゴリゴリマッチョという役柄となっている。
とはいえ、暴れまわるだけでなく娘との関係に悩む平凡な父親としての姿も描かれており、今までよりも演技力を求められる内容になっていたのが良かった。
「なんだ、こういう演技もできるのか」と感じたものだ。
本人は監督業にも興味があり、”ドラマチックで感動させるような映画”を撮りたいらしく、役者としてもそういう役を演じてみたいのかなと少し思った。
まぁ、マッチョが暴れているだけで個人的には満足なので今後も筋肉をぶん回して欲しい。
驚いたのは、ヘリ操縦士を演じていた役者がスキャンダルで出せなくなったため、後からCG処理でほかの俳優を出したことだった。
確かに言われてみればその役者単体のカットが多かったように感じる。
しかし言われなければ気付かないので、うまく処理したなと思ったものだ。
「金のかかった上質なB級」といった感じで、楽しめるっちゃ楽しめるのだが少し物足りなさも感じる本作。
スプラッター描写は最高なので、それ目当てに観るのはありかもしれない。
気になる終わり方であった本作だが、続編が製作されるかどうかは未定(監督は続編の構想があるらしい)。しかし、前日譚が描かれるスピンオフが製作されるのは決定しているとのことで、そちらを楽しみにしようと思う。
予告動画
評価
点数(10点満点):6(それなりに楽しめる)
概要
視聴はこちらから:
・Netflix
公開年:2021年
【映画レビュー】ウィズアウト・リモース
所感
Amazonオリジナル映画として公開された軍事スリラー『ウィズアウト・リモース』。
原作は、同じくAmazonオリジナルドラマの『ジャック・ライアン』シリーズの生みの親として知られるトム・クランシーの『容赦なく』だ。
まぁ……正直、平凡な映画だった。
トム・クランシーといえば、軍事・諜報活動を用いたスリラー作品が主だ。
ミッションに裏があるのはいつものことだし上層部に黒幕がいるのもいつものこと。
なので、真実が明らかになるまでの道程をどうドラマチックに描くかが監督の腕の見せどころなのだが、本作の監督であるステファノ・ソリマでは少し力不足だったのだろう。
主役のマイケル・B・ジョーダンの演技は素晴らしいだけに残念に思う。
これはトム・クランシー作品をいくつか見ている(ゲームを遊んでいるでもいい)人なら共感を得られると思うが、どうにも彼はアメリカが好きすぎるのか作中に「愛国者」を出したがる傾向にあり、本作でも「国のために」というセリフが何度か出てくる。
それ自体はそこまで悪くないのだが、本作のキャラクターたちの持っている愛国心は少し古臭いというか、「国のために必要だから他国の人バンバン殺しちゃうよ」というテロリストと同等の過激な思想を持つ者が当たり前のように出てくる。
原作が刊行された1990年代ならいざしらず、2021年の今この時代にそういったキャラクター像は古臭く感じるしあまり褒められたものではないだろう。
いまさら第二次世界大戦の話を持ち出されても、こすりつくされた設定にはもう飽き飽きなのだ。
ストーリーは落第点だが、アクションシーンはクオリティが高い。
主人公はあくまで周りより少し優秀なだけのタフガイなので、ランボーのように大立ち回りを演じるということはなく、ジリジリと追い詰められるのをどうにかして切り抜けていくのだが、ギリギリまで粘って瀕死のところを味方が見つけて助けてもらうことが多い。
銃撃戦はどれも手に汗握るもので、リアルな(実際に体験したことないのでこの表現が正しいかはわからないが)緊張感にヒリヒリさせられる。
とくに終盤の対物ライフルに囲まれてからの展開は素晴らしかった。
脚本の出来の悪さを、役者の演技とアクションシーンで補っている本作。
GWに楽しみに観る映画としては少し弱いが、何本も映画を観る予定であればラインナップに加えるのはアリだ。
また、ドラマの『ジャック・ライアン』とも関わりがあるので、そちらが好きな人にもいいだろう。
Amazonはジャック・ライアンユニバースを広げるつもりなのか、特殊部隊「レインボー」(ゲーマーならシージでおなじみのアレ)に関しても触れていたので、もしかしたら続編かスピンオフが出るかもしれない。 どうなるかは本作の評価次第だと思うが、Rotten TomatoesやAmazonでのレビューを見る限りは少し厳しいのかもしれない。
予告動画
評価
点数(10点満点):6(それなりに楽しめる)
概要
視聴はこちらから:
・Amazonプライム・ビデオ
公開年:2021年
【映画レビュー】サンダーフォース 〜正義のスーパーヒロインズ〜
所感
中年女性2人が手に入れたスーパーパワーを使い、シカゴの街を荒らす悪い奴らを倒す痛快アクションコメディ。
正直それ以上でもそれ以下でもなく、面白いかと問われたら「うーん……いやぁ……」という感じだ。
主演のメリッサ・マッカーシーは、2016年リブート版『ゴーストバスターズ』で喋りだしたら止まらないお調子者のオバサンという記憶があったが本作でも基本的には同じ。
調べてみたら2013年のサンドラ・ブロックとバディを組んだ『デンジャラス・バディ』の人だったのでなるほどと合点がいった。この人は基本的にはどの映画でもひたすら喋り倒すキャラを演じることが多いのだろう。
もう1人の主演であるオクタヴィア・スペンサーは申し訳ないことに覚えていなかったのだが、wikiを見たら『ダイバージェントNEO』や『スノーピアサー』など観たことある映画に出ているようだった。
また、気になっている『マー -サイコパスの狂気の地下室-』で主演を努めているので今度観てみようと思う。
本作の世界設定は結構ガバガバで、宇宙線を浴びたごく一部の人たちが超能力を得たことによって「ミスクリアン(悪漢)」と呼ばれた、という入りから物語が始まるのだがなぜ超能力を得た人たちは悪者しかいないのかという下りはないし、超能力を得た人たちがほんとにごく一部すぎて全然出てこないしで、もっと他に良い設定は思いつかなかったのかと問いたい。
ただこれがコメディ映画という前提で見たらこのような問題は些末なもので、とりあえず超能力が出てくる世界設定にしたので1分で考えましたと言われてしまえば「コメディだしいいか」となってしまう。
その割には中途半端にシリアスな部分も入れてこようとしており、そのバランスがうまく機能していないため本作は凡作になってしまったのだろう。
主役2人は近年のハリウッド映画のアンチテーゼのような設定となっており、
- 中年女性がパワーを手に入れる
- 2人とも肥満体型
- 白人は底辺の仕事で黒人は大成功
- 黒人のほうはシングルマザー
といった具合だ。
ここまでてんこ盛りだと流石に狙っているとは思うのだが、「ここまでやるの面白いでしょ」というメタ的な視点でのネタなのかどうかが映画を観ただけでは判断できず、これが社会風刺的に描きたいのか、ただ逆張りで描いているだけなのか、いまいち判断が難しい。
なぜ判断が難しいのかというと、シナリオ自体はハリウッド特有のご都合主義で、あえての逆張りだとしたらそこがおかしいし、社会風刺だとしたらそこを押し出しているわけではないのでメッセージが弱い。
とにもかくにも中途半端なのだ。
CGは結構頑張っていたし、主演2人の演技は素晴らしい。
だがシナリオが中途半端過ぎて常に軽くスベっている状況が最初から最後まで続く。
「Netflixオリジナルを網羅したい」という理由で見るのなら止めはしないが、「スーパーヒーローものが観たい」という人にはおすすめできない。
予告動画
評価
点数(10点満点):4(つまらない)
概要
視聴はこちらから:
・Netflix
公開年:2021年
【映画レビュー】スパイダーマン: スパイダーバース
所感
本作を観終わったとき、私はこう思った。
失敗した――なぜ私は、この傑作を劇場で観なかったのだろうと。
スパイダーマンの映画として、だけでなく。
アメコミヒーロー映画として、だけでなく。
純粋に映画として、歴史に残る大傑作だった。
この凄さをどう伝えればいいのか、語彙力がなくて申し訳ないが、絵も音楽もストーリーもすべてが良かった。
今はCGが発達してコミックの雰囲気を実写で出せるようになったが、本作はアニメだからこその演出にこだわっており、製作が”コミックでの表現を映画のスクリーンに落とし込む”と言っている正にその通りだと感じた。
「アニメだからこその演出」とは書いたが、本作自体は3DCGで作画した後に手描きならではの要素が追加されており、あえてぼかしがあったり、CG臭を消すために鮮明に描いてなかったりと今までにない演出がなされている。
これは本当に映像を見てもらうしかない。予告でもいいので一度見てもらいたい。「これは今までのアニメとは違うな」とひと目でわかる。
スパイダーマンの映画といえば、サム・ライミ版から2回のリブートによってストーリーや世界が変わることが日本でも知られていると思うが、だからこそ本作の「平行世界のスパイダーマンが登場する」というストーリーが受け入れられやすかったように思う。
マーベルの世界では「アース◯◯◯」といって、同じヒーローでも違う世界の出来事を描いていて、例えば原作の正史はアース-616、MCUの世界はアース-199999といった感じなのだ。
そして映画ではほかのマーベル作品と違い何度もリブートしているスパイダーマンだからこそ、この形は受け入れられやすかったのだろう。
また、アニメなのも良かった。
日本のアニメ調のキャラクターであるペニー・パーカーは実写だと上手く表現できなかったように思う。
SP//dr可愛いよSP//dr。
この凄さを上手く伝えられずもどかしいが、とにかくとてもすごい映画なのだ。
本当に全人類一回は観てほしい。
私はNetflixで観たが、UHD-BDを買ってもう一度高画質で見直そうと思う。
なるべく高画質で、4K画質で観られる環境があるのであればそちらで観ることをおすすめする。
2022年に続編が公開予定なのでそれを楽しみにしているのだが、続編公開に合わせてどこかの名画座で上映してもらえないだろうか……。
予告動画
評価
点数(10点満点):10(最高傑作)
概要
視聴はこちらから:
・Netflix
公開年:2018年
【映画レビュー】プロジェクト・パワー
所感
ジェイミー・フォックスとジョセフ・ゴードン=レヴィットのW主演によるNetflixオリジナル映画。
“パワー”と呼ばれる謎のドラッグを巡る物語で、わかりやすい伏線に派手なVFX、脳を使わず観れる楽しいアクション映画だった。
こういうのでいいんだよ、こういうので。
本作には生まれながらのスーパーヒーローは出てこず、一般人がドラッグを摂取することでパワーを得るということなのだが、あくまで”ドラッグ”なので流通は裏ルート、手に渡るのは犯罪者という形になっているのが面白い。
このドラッグ自体も流通し始めたばかりということで犯罪者側もそこまで使いこなせておらず、また発現するパワーもランダムで下手したら爆発して死ぬというリスキーな部分があり、今までのスーパーヒーローものと一線を画している。
DCやMARVELのアメコミ映画がヒットしたおかげでスーパーヒーローものに多様性が出てきており、本作はその恩恵を大きく受けていると感じた。
主演2人の演技はさすがの一言。
ジョセフは警官としてパワーを追いかけつつも、対抗するためには同じ力が必要だということでパワーを使う型破りな役で、どちらかというと『インセプション』のアーサーのようなスマートな印象の強いジョセフの、本作のような荒々しい役は珍しいように感じた。(まぁ『G.I.ジョー』や『キルショット』のように悪役、チンピラは過去にも演じてはいるのだが)
そしてなにより”ロビン”役のドミニク・フィッシュバックが良い演技をしている。
彼女は病気の母親のために薬の売人をしている学生として出てくるのだが、いい味出してる。手っ取り早く金を稼ぐために悪事に手を染めたせいで事件に巻き込まれ、怖い思いをしたにも関わらず最後まで付き合ってしまうのは彼女の根が善人だからなのだろう。その切替をドミニクは上手く演じている。
物語としては「子供がこんな危険なことを……」とは思うのだが、どうにも主演2人は脳筋な部分があるので、劇中では彼女の機転に助けられることが多く、最後の場面でのMVPは彼女だったりする。
ご都合主義な部分は目立つが、冒頭で述べた通りアクション映画はこれくらいガバガバな展開で良いと思っている。
画作りが派手で綺麗で、カタルシスが解放されれば良いのだ。
そういう意味で本作は、頭を使うことなく楽しめる作品としておすすめである。
予告動画
評価
点数(10点満点):8(おすすめ)
概要
視聴はこちらから:
・Netflix
公開年:2020年
【映画レビュー】ゲット・アウト
所感
公開時から評価が高く、観よう観ようと思っていたのにいつの間にか忘れていたのを、ふと思い出したので鑑賞。
色々なところで書かれている通り、確かにこれは下手なことを言ったらネタバレになってしまう……感想を書くのが難しい作品だった。
ただ確実に言えるのは、「とても面白かった」ということだ。
ジャンルはホラーだが、その中でもサイコサスペンスに分類されると思われる。
大きい音とショッキングな映像で怖がらせてくるタイプではないので、そういうのが苦手な人でも楽しめるだろう。
ジワジワと感じる違和感が、謎解きのタイミングで一気に解放されていくのだが、注意しないと気づかないような伏線が張られているわけではなく、誰でも覚えてるような謎ばかりなので、「あのシーンはそういうことだったのか!」と点と点が繋がったときのカタルシスがとても気持ちいい。まぁ、内容はエグいので爽快感とは無縁なのだけれど。
「どういうことなんだろう?」と想像しながら観ていても、終盤の展開はほとんどの人は思いつかないような内容で、映画はやっぱり面白いなと再認識させられた。
ホラーの中にレイシズム(人種差別)に関する社会風刺が痛烈に混ぜられていて、それが物語の軸となっているのも面白い。
これは監督が黒人だから成り立っているだろうが、白人だったら叩かれていたのではないかとも思う。
至るところに伏線が張られているためあまり詳しく書けないのがもどかしいが、ホラー以外の部分も魅力的な本作。
ホラー耐性がある人ならばぜひおすすめの作品だ。
予告動画
評価
点数(10点満点):9(観るべき)
概要
視聴はこちらから:
・Amazonプライム・ビデオ(字幕版)
・U-NEXT
・dTV
公開年:2017年
【アニメレビュー】BURN THE WITCH
所感
『BLEACH』で知られる久保帯人 氏の新作。劇場公開されていた中編アニメを、3話に分割してAmazonプライム・ビデオにて配信したもの。
内容は原作のシーズン1を丁寧に描いているが、キャラの関係性などが読切版を読んでいないと把握しづらくなっているので、アニメを見ただけだと置いてけぼりになること必至。アニメしか見ていない人には原作を読んでもらいたい。
ただまぁ、原作も読切とシーズン1しかまだ出ていないので、「続きが気になるから」という理由では原作は買わないほうがいい。
シーズン2の予告はされているので気長に待とう。
TVアニメではなく劇場公開(と言っても公開期間は短いので配信メインだと思われるが)ということで力を入れて作られており、アニメーションのクオリティは高く、久保氏の描くキャラクターたちが活き活きとしている様は素晴らしい。
特にトップ・オブ・ホーンズと呼ばれる長官たち(BLEACHでいう護廷十三隊の隊長たちのような存在)の登場シーンなどは中二心をくすぐられる。
ネーミングセンスも抜群で、人名・技名ともにアニメでの語感の良さが目立つ。
BLEACHからそうだったが、とにかく詠唱が格好良く、本作の最序盤で出てくる「指の先 声の鋒 リベンジャー・ジョーの鉄の鍵 五錠三鎖を連ねて静寂 笛の音色で眼を潰す」はもう……とにかくグッとくる。
久保氏は「声に出したときに綺麗な響きの音になるように」というのを意識して漫画を描いているらしく、その効果が存分に発揮された形だ。
3話でサクッと観られるので、休日にでもまとめて観ることをおすすめする。
予告動画
評価
点数(10点満点):7(要チェック)
概要
視聴はこちらから:
・Amazonプライム・ビデオ
公開年:2020年